日本における少子高齢化問題は、労働人口の減少や社会保障制度等の現役世代の負担増加など、さまざまな影響を及ぼす。子育て支援は、その対策のひとつだ。
政府でも子育て支援制度の拡充を行っているが、共働き夫婦の多い現代において企業でも子育て支援を行うことが重要である。
そこで、マイナビキャリアリサーチLabでは複数回にわたり、企業独自の子育て支援制度を導入している企業にインタビューをしていく予定だ。シリーズ第一回目となる今回は、現状法律で定められている仕事と育児の両立支援制度や企業が子育て支援を行うことによるメリットなどを紹介していく。
子育て支援が必要な理由
まず、改めて日本の人口推移を総務省統計局のデータからみてみると長期的に減少傾向にあり、2025年4月時点で15歳未満の子どもの数は1,366万人。1982年から44年連続で減少している。
総人口における子どもの割合も1975年から51年連続で低下。これは、経済的負担や仕事と育児を両立することの難しさから、若い世代の結婚や出産への意欲が低下していることが要因の一つと考えられる。
実際に、マイナビが実施した「ライフキャリア実態調査」では、未婚者の20代で43.5%、30代で37.5%の人が独身にメリットを感じている。「今後子どもが欲しいと思うか」という質問に対しては、正規就業者の20代で21.4%、30代で31.6%が「子どもは欲しくない」と回答している。【図1】20代の約5人に1人が子どもを望んでいない状況だ。
【図1】今後子どもが欲しいと思うか/マイナビライフキャリア実態調査 2024年版(ライフ編)
また、マイナビが正社員に聞いた「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版(2024年実績)」において、共働きかつ20代にしぼった結果をみると子どもについて「漠然といつか欲しいと思っている」が30.3%で最多だったものの、「どちらかというと子どもは欲しくないと考えている(11.4%)」「どんなことがあっても子どもは欲しくないと考えている(9.4%)」の合計が20.8%となり、こちらのデータで見ても約5人に1人が子を持ちたくないと考えていることが分かった。【図2】
【図2】子どもが欲しいか/マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版(2024年実績)」
子どもが欲しくない理由としては、「お金がかかるから」「養っていける自信がないから」のような金銭面での不安を挙げる声が多かった。
また、「可能であれば子どもが欲しかったが、所得など環境的な理由や身体的な理由で子どもは産めないと考えている」と回答した人も10.4%おり、その理由を聞いたところほとんどの人が経済的負担を理由として回答していた。
以上のことから、とくに金銭面での子育て支援が求められているといえるだろう。
法律で定められている両立支援制度
ここからは、現状(2025年5月時点)の法律で定められている仕事と育児の両立支援制度を解説していく。
休業制度
まず、妊娠したら労働基準法に基づき産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)と産後8週間の「産前・産後休業(産休)」を取得できる。産前休業は労働者からの請求によって取得となるが、産後休業は強制的に休業させる義務があるという違いがある。
出産後は育児・介護休業法に基づき、労働者は原則として子が1歳に達するまで育児休業(育休)を取得できる。保育園に預けられないなどの事情がある場合は、最長で2歳まで延長可能だ。
また、2010年から施行されている「パパママ育休プラス」では、両親がともに育児休業をする場合、あとから取得するほうの育児休業終了時期を子の年齢が1歳2か月まで延長できる。
2022年10月からは「出生時育児休業(産後パパ育休)」が創設され、父親も子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を2回に分けて取得できるようになった。これにより、男性の育児参加を促進し、家庭内での育児負担の分担が進むことが期待されている。
給付金や保険料の免除
詳しい手続きの説明は省略するが、出産後に受け取れるお金としては「出産育児一時金」や「出産手当金」などがある。出産育児一時金は、妊娠4ヶ月(85日)以上で出産した場合に原則子ども1人につき42万円、双子の場合は84万円が支給される。
出産手当金は、働いている女性を対象に、出産日(もしくは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休み給与の支払いがなかった期間の分だけ規定の計算式で決められた手当がもらえる。
また、育児休業中の所得保障としては、雇用保険から「育児休業給付金」が支給される。支給額は、休業開始から180日間は賃金の67%、それ以降は50%である。さらに、育児休業期間中は健康保険および厚生年金保険の社会保険料が、被保険者本人と事業主の双方について免除される制度がある。
この免除は、育児休業を取得している月の末日において休業中であることなど一定の条件を満たす場合に適用される。免除期間中も健康保険の給付や将来の年金額には影響がなく、育児と仕事の両立を経済的に支えることができる仕組みである。
また、2025年からは「育児時短就業給付金」など新たな給付制度も導入され、育児中の就業支援がさらに強化されている。こちらについては後述する。
復帰後の両立支援
育児休業からの職場復帰後も、育児と仕事の両立を支援する制度が整備されている。たとえば、3歳未満の子を育てる労働者には、短時間勤務制度の利用が義務付けられており、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮できる。また、小学校就学前の子を育てる労働者は、時間外労働の制限や深夜業の免除を申請することができる。
これにより、子どもの成長に合わせた柔軟な働き方が可能となる。また、有給休暇とは別に年5日または10日の「子の看護休暇」を与えることが義務付けられており、これは1時間単位で取得できる。
さらに、企業には「育児休業等取得状況の公表義務」があり、男性の育児休業取得率の向上も図られている。復帰後の支援としては、職場内での相談体制の整備や、業務の引き継ぎ・再教育の実施なども推奨されており、育児中の従業員が安心して働き続けられる環境づくりが求められている。
2025年からの拡充制度
2025年4月からは、「こども未来戦略」に基づき、仕事と育児の両立をさらに支援する新たな制度が導入された。以下で紹介する。
- 出生後休業支援給付金…両親が子の出生後8週間以内に14日以上の育児休業を取得した場合、従来の育児休業給付金に加えて、休業前賃金の13%相当が最大28日間支給される。これにより、手取りで最大80%相当の所得保障が実現される。
- 育児時短就業給付金…2歳未満の子を育てるために短時間勤務を選択した労働者に対して、賃金の10%が補填される。
- 子の看護休暇…象となる子の年齢を小学校就学前から小学校3年生修了時まで引き上げ、病気やけがのときだけでなく感染症に伴う学級閉鎖や行事も対象となった。
- 所定外労働の制限(残業免除)…請求できる期間を子が3歳になるまでから小学校就学前までに変更された。
これらの制度は、育児休業の取得促進だけでなく、復帰後の働き方の選択肢を広げるものといえる。
育児介護休業法の改正については、こちらのコラムでも詳しく解説している。
企業と子育て支援―仕事と育児の両立支援制度
それでは、企業はどのように子育て支援制度を考えていけばいいのか。独自の子育て支援を行うことのメリットや、取り組みをするともらえる助成金などについて紹介していく。
独自の子育て支援を行うメリット
企業が独自の子育て支援を行うことによるメリットとしては、人材確保や従業員のモチベーションアップなどにつながることが考えられる。
マイナビが行った「育児離職と育休の男女差実態調査(2025)」では、子育て中の正社員のうち育休経験がある女性で41.3%、育休経験がある男性で33.3%の人が育児との兼ね合いで退職を経験、あるいは退職を検討したことがあるという結果が出ている。
一方で、子育て中の理想の働き方について聞くと、子どもが保育園・幼稚園入園前の女性で84.1%、入園後で88.5%、小学校低学年で86.3%、小学校高学年で86.1%が正社員として働くことを希望している。企業が子育て支援を行うことで「働き続けたいのに辞めざるを得ない」層の退職を防ぐことができそうだ。【図3】
【図3】末子学齢ごとの理想の働き方/マイナビ「育児離職と育休の男女差実態調査(2025)」
令和4年に厚生労働省が行った「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」の企業調査によると、企業が子育て支援を行うことで得た効果として、「全体」では「妊娠・出産・育児等を理由に辞める社員が減った」が42.2%でもっとも回答割合が高く、次いで「社内において子育てしやすい雰囲気が醸成された、仕事と育児の両立に関する理解が促進された」が34.4%という結果になっている。【図4】
【図4】仕事と育児の両立支援を推進することで得られた効果/厚生労働省「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」
具体的な取り組みでみると、男性が育児休業を取得することのメリットとして「離職防止(47.3%)」と回答した企業が一番多く、次いで「従業員のエンゲージメント向上(42.6%)」「多様な人材についての理解促進(40.0%)」であった(マイナビ「中途採用・転職活動の定点調査(2024年8月) 」より)。
求職者側に「男性育休の取得推進についてどのような印象を受けるか」と聞いた調査(マイナビ「転職活動における行動特性調査 2024年版」)では、魅力的と感じたのは67.8%という結果も出ている。
以上のことからも、企業が独自の子育て支援をすることで人材確保や働きやすさの醸成、ひいては従業員のモチベーションアップにもつながるといえるだろう。
助成金・補助金
企業が子育て支援に対する取り組みを行うことで、助成金や補助金が出る場合がある。以下で詳しく解説するが、紹介するもの以外にも自治体ごとに制度がある場合があるので確認すると良いだろう。
両立支援等助成金
両立支援等助成金は、仕事と育児・介護の両立を支援するために、一定の取り組みを行った事業主に対して国が支給する助成金制度である。
主なコースには「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」「育児休業等支援コース」「育休中等業務代替支援コース」「柔軟な働き方選択制度等支援コース」などがあり、それぞれの目的に応じた支援が用意されている。【図5】
【図5】両立支援等助成金 各コースの説明/マイナビ作成
たとえば、男性労働者の育児休業取得を促進するための取り組みを行った企業には、出生時両立支援コースにより助成金が支給される。
2024年1月より新設された「育休中等業務代替支援コース」では、育児休業取得者や短時間勤務者の業務を代替する人材を新規で確保した場合や、代わりに業務を行う労働者に手当を支給した場合に受給できる。
これらの制度は、企業が両立支援に積極的に取り組むインセンティブとなり、働きやすい職場環境の整備を後押しするものである。
くるみん助成金
くるみん助成金は、次世代育成支援対策推進法に基づき、子育て支援に積極的に取り組む企業を認定する「くるみん認定」「くるみんプラス認定企業」および「プラチナくるみん認定」「プラチナくるみんプラス認定企業」を取得した中小企業に対して支給される助成金である。
助成金の対象となるのは、認定を受けるために策定・実施した一般事業主行動計画に基づく取り組みであり、たとえば育児休業の取得を促進するための整備や、男性の育児参加促進などが含まれる。
助成額は50万円を上限に、認定の取得にかかった費用や取り組みの内容に応じて支給される。くるみん助成金は、単なる認定取得の奨励にとどまらず、企業が継続的に子育て支援に取り組む体制を構築するための経済的支援として機能している。これにより、企業の社会的責任(CSR)やブランド価値の向上にも寄与する制度である。
課題解決に向けて
この記事では、法律で定められている仕事と育児の両立支援制度や企業が子育て支援をすることのメリットやもらえるお金などを解説した。
とはいえ、「どんな子育て支援をすれば良いのかわからない」「課題がありなかなか施策実現ができない」という企業もあるだろう。
具体的にどんな課題があるのかを調べてみると、厚生労働省が行った「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」の企業調査では、両立支援の課題・障壁として「全体」では「代替要員の確保が難しく、管理職や周囲の従業員の業務量が増えた」が46.7%でもっとも回答割合が高く、次いで「子育て中の従業員とそうでない従業員との間で不公平感がある」が26.9%と続いた。
本シリーズでは、こうした課題解決に向けた取り組みなど、さまざまな制度を導入している企業事例を紹介していく。